MA2018に参戦したおかげで少し語れる様になった - VUI「けいこさん」の設計思想

MashupAwardsヒーローズ・リーグ Advent Calendar 2018 の16日目の記事です。すみません。

qiita.com

MA2018に参加された皆様、お疲れ様でした!2015年にはじめて2nd Stageを経験して以来虜になり、2016,2017,2018と今回で4回目の参戦となりましたが、今回ついにVUI賞およびHackEverything賞(freeeさん) という大変名誉な賞を頂きました。この記事はその参戦記であると共に、MA参戦で学んだこと、そして、MA良いよ!という思いのアウトプットとなります。

作ったもの

こんな感じの だらしないマネージャを救うVUIアプリ - けいこさん(仮) というものを作りました。漫画を読みながら勤怠承認、Twitterをみながら購買りん議の承認、筋トレしながら休暇申請承認!的なことができます。「一覧」「承認」「却下」の5つのアクションのAPIさえ用意すれば、どんなサービスとも連携が可能だったりします。

www.youtube.com

戦果

以下二つの賞を受賞し、2nd Stageでのプレゼン, FESTA2018でのプレゼンの機会を頂きました。数ある素晴らしい作品の中から選出いただき、感謝の気持ちでいっぱいです。副賞を原資に、サービスローンチに向けて引きつづき開発を進めております。

  • VUIヒーロー賞 : VUIのプロの方々に審査で選出される部門賞的なもの(副賞10万円)
  • Hack Everything賞 : freee さんによる 売上を伸ばす/業務コストを減らすの両面で経営者/業務担当者の生産性をハックする作品に送られる賞(副賞5万円)

作品紹介スライドはこちら(発表時より少しアップデート)

www.slideshare.net

MAに参加している強い人たちからのフィードバックは尊い

さて本題です。

「何かアイディアを思いついたり、何かを作ったら、色々な人に見てフィードバックをもらうと良いよ」とはよく言いますが、MAに参加することはフィードバックをもらうのに非常に適した場所だと思っています。理由は主に以下の通りです。

  • 2nd Stage以降のレベル感を見ればわかる様に、みなさん化け物揃い
  • 多様な評価軸が用意されているため、独自の視点をおもちの変態な方々が多い
  • 名刺は作品、という価値観で行われる懇親会や個人賞など、作品に対して出場者同士で話をすることを推奨する空気と仕掛けがある(そしてアルコールが入った状態で会話する様にデザインされている)
  • 作り手同士の会話になるので、フィードバックが濃くて深い(言語化上手な人が本当に多い)

僕としても、今回は2nd StageやFESTA2018で発表できたことにより、よりたくさんの方々と作品について良い点疑問点悪い点、色々なフィードバックをいただくことができました。特に、GameControllerizerでみんなで選ぶヒーロー賞を2位受賞された 消極性研究会 SIGSHY の栗原先生よりいただいたフィードバックからは、僕自身も気づいていなかった今回の作品の性質や、ひいては僕自身の物を創りたいと思う理由などを言語化するヒントを頂きました。

教えていただいた著書-消極性デザイン宣言 はこちら。必読です。

消極性デザイン宣言-消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。

消極性デザイン宣言-消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。

VUI - けいこさんの設計思想

ということで、制作当初にはなかった考え方を盛り込みつつ、改めてVUI「けいこさん」の設計について、少しだけ触れてみたいとおもいます。本当は別記事でもっと詳しく、丁寧にまとめようと思っていたのですが、そんなことをすると一生アウトプットされないので、勢いでそのままいくこととします。

課題を「やる気」で解決しない

人間は基本的に消極的な生き物であり、やる気というのは人間の心、つまり最もマネジメントし難いものの一つです。「やる気を無理に出させるのではなく、やる気がない状態でも使えるようなシステムとインターフェイスを提供する」というのが消極性デザインの基本的な考え方です。

勤怠承認や購買りん議の承認作業は、それ自体の重要性は分からないでもありませんし、毎日やれれば数分で終わるものです。それでも巷には、僕の様に勤怠承認を月末まで溜め込んでしまう人がたくさんいます。毎日少しづつ捌けば楽になることもわかっているし、業務としてやらないといけないにも関わらずです。これを「やる気の問題」と片付けていては解決しないことは、歴史が証明しています。

「けいこさん」はそんなやる気のない利用者でも、毎日承認作業ができるような仕組みを作ることを目的として設計した結果、VUIをインターフェイスとして選択しました。

ちなみに、ターゲットユーザとしては究極的に消極的な「僕」を想定しています。「たとえ2分のタスクでも、なんやかんやでやり始めるのに2時間かかる」という特徴を持っています。

使おうとしやすさ over 使いやすさ のためのVUI

前述の通り、承認を滞納してしまう最大の原因は毎日コツコツやれないことです。この課題を解決するために必要なのは、アプリの「使いやすさ」よりも「使おうとしやすさ」です。書籍では「アプローチャビリティ」と解説されている概念です。

実際、何かの課題を達成するためのツールとしてみた時、VUIは従来のUIよりも使いやすさの面では劣っています。入力が音声に限定されるため、音声の誤認識や言い回しによる言葉の解釈ミスなど、意図通りに動作させるには使う側にも慣れを必要とするインターフェイスです。

一方で「使おうとしやすさ」について言えば、常に待機状態でいて一声かけるだけで目的を達成できるという点で、VUIが有利となる局面はたくさんあります。実際、スマホのみの時代には天気をチェックしなかった僕も、スマートスピーカを導入してからは出かける前に天気情報を収集するようになりました。「使おうとしやすさ」には人の行動を変える力があります。

他の行動よりも選択されやすくするためのVUI

いかに使い始めやすいインターフェイスを備えていたとしても、ユーザに他の行動よりも優先して選択してもらわなければ、利用されることはありません。

単に承認作業をサクサク完結させるのであれば、例えば Tinder のようなアプリでも良いのです(実は今作っていますが)。アプリを開くと承認タスクが一つずつ表示され、OKなら右に、NGなら左に、保留したいなら下にスワイプしていき、承認等のAPIコールを裏で非同期に行うようにしてしまえばかなりサクサク作業ができそうです。使っている間の体験は間違いなくこちらの方が良いでしょう。しかしそれでも、承認作業のインターフェイスはVUIの方が優秀であると考えます。

上記のアプリを利用するには、前提条件として「スマホを手にしていて、画面を目で確認できる状態であること」が成立している必要があります。この条件自体を成立させることは難しいことではありませんが、一つ致命的な問題があります。それは「 色々なことができすぎる状態であること」です。

スマホを手にしていて、画面を目で確認できる状態であること」というのは、承認アプリを起動することも可能であると同時に、Twitter などのSNSKindleでの読書、ゲームをすることも可能です。ちょっとした隙間時間ができたとして、それらの楽しい行動を抑えて承認アプリを起動することを選択するには、やはり「やる気」に頼らざるを得ません。

ユーザの行動選択には優先順位があり、ユーザはその時々において一番目と判定されたものを行動として選択します。日常的に使われるツールにおいては、この「一番目」になりやすいような設計が重要です。VUIの利用可能条件はスマートフォンの利用可能条件とは重ならず、かつVUIの利用可能条件のみが成立している状態もそれなりに多いため、一番目を取りに行くにはVUIの方が適していると言えます。他のスマホアプリと競い、常時三番、四番にいることよりも、一瞬だけでも一番に確実になれることが重要です。

書籍 : 消極性デザイン宣言 にて「二番目のデザイン」として解説されていることを「けいこさん」に当てはめています

ながら利用で他の行動と同時に一番になれるVUI

先述の一番になりやすいという特徴に関連して、VUI / けいこさん にはもう一つ特徴があります。それは他の行動と同時に一番になれることです。洗濯物を畳みながら、運転をしながら、筋トレをしながら、走りながら、漫画を読みながら、Twitterをしながら、料理をしながらでも利用することができます(本質的に言っていることは前項と同じですが)。

また、この特徴は同時に「ついでの原理(こちらも書籍より)」という、他の行動で駆動したモチベーションに便乗する手法にのっとり、利用を開始することを可能にします。例えば家で筋トレをするなら、その近くにスマートスピーカを置いておくことで、「筋トレをしよう!」というモチベーションで筋トレを開始したのち、その勢いを利用して承認作業を始めることができます。「せっかく筋トレ開始したんだかから勤怠承認もしておくか」という具合です。

このように、何かのついでに利用することができるという点でも、けいこさんはVUIである必要がありました。

共通のインターフェイスで捌ける範囲に機能を限定

アプリでできることを「承認」「却下」「保留」「詳細確認」の4つのアクションに限定することで、勤怠承認、休暇申請承認、購買りん議承認など「何かを確認して承認する」という括りができるものは何でも対応できるように設計しました。これにより「とりあえずコイツに頼めばOK」という体験を提供することができると同時に、先述のVUIの「使いにくさ」をある程度補うことが可能です。

とりあえずコイツに頼めばOKという体験を提供

それが何であれ「あなたが確認して承認しなけれればならないタスク」はこのアプリに聞けば良い、とすることで、ユーザは何も考えずにアプリを使い始めることができるようにしています。これがもし、勤怠承認と購買りん議を異なるアプリで操作する必要がある設計をしてしまうと、ユーザにはどちらのアプリを起動するのか選択を強いることになり、使い始めるコストが増加します。最悪の場合、勤怠承認は0件、購買りん議が2件ある状態で勤怠承認アプリを起動するような事態も発生し得ます。

動作をシンプルにして VUIの使いにくさを軽減

このアプリを起動した後にアクションは、いくつかの隠しコマンドを除けば「承認」「却下」「保留」「詳細確認」および「もう一度聞く」「アプリを終了する」の6つです。シンプルなアクションのみをサポートとすることにより、音声の誤認識や、言い回しによる言語理解のミスの影響を最小限に抑え、意図した通りにアプリを利用できるようにしています。

また、VUIのもう一つの使いにくさの要因である「ソフトウェアの状態をユーザが記憶する必要がある」という点を軽減するため、アプリ内部でどの種類の承認を処理するのかを尋ねる機能も削っています。とにかく何も考えず、読み上げられたことがAcceptableなのかどうかだけを判断し、承認、却下、保留の操作を粛々と繰り返せるようにしました。

理想は紙ベースの承認作業+秘書さん

実は「けいこさん」の目指すところは、紙ベースの承認作業と秘書さんのハイブリッドです。 保育園に持っていくオムツ一つ一つにおなまえスタンプを押すという家庭内業務をしていて気づいたのですが、紙ベースの承認フローというのは、承認印を押す人にとってはなかなかに優秀なインターフェイスであると言え........このあたりはまた書きます。

その他の学び - 作品でそもそも論を引き摺り出したい(かも)

このアプリを見て「そもそもそんな承認作業要る?」と突っ込みたくなったアナタ。ありがとうございます。

懇親会などで話していて、自分はもしかして「馬鹿馬鹿しいルールを守るためにあえて真面目にシステム化して、そもそもそれ必要?という話が出てくるのを狙って開発しているのか?」ということを考えるようになりました。人間のやっている作業を、ITを使ってこれまでとは異なる形、あるいは完全自動に変換することで、それまで見えていた「人間が作業することによる仕事してる感」が削ぎ落とされ、そもそもやろうとしていることが正しいのかどうかに焦点が当たりやすくなるのでは、という仮説です。

作品自体は真面目に課題を解決することを目的として制作しつつも、実は既存のルールに対する風刺になっている。思えばこれまで作ったり、アイディアとして浮かんだものはそんな発想を元に生まれてきたものが多い気がします(公私ともに)。もう少し掘り下げる必要はありますが、今回のMA参戦で自分の創作活動のジャンルのようなもののヒントを得た気がしています。

おまけ : マントの功罪

余談ですが、今回、FESTA2018のヒーロー任命式(授賞式てきなもの)にて、真っ赤でテカテカな生地に「I AM A HERO」とプリントされたマントが配られ、帰るまでそれを着用し続けるという罰ゲーム的な仕掛けがあったのですが、こちらについて。

https://protopedia.net/prototype/84c6494d30851c63a55cdb8cb047fadd

https://ma2018.we-are-ma.jp/wp-content/uploads/2018/12/hero_06VUI.jpg

正直いって非常に恥ずかしく、運営の方々に見つかり怒られるまでは一度外していたのですが、なんだかんだでこれ、あって非常に良かったです。

色々考えてしまいネットワーキングが苦手な僕 でも、懇親会の時に「どんな作品で受賞したんですか?」と声をかけていただき、たくさんの方とお話できたのはおそらくこのマントのおかげでしょう。あのマントは「こいつ、自分から誰かに話しかける勇気はないけれど、作品出して、それなりに面白いものを作ったやつだから、話しかけてやりなよ」という運営からのメッセージだった、というおそらく設計されていないであろう、ある意味のSHYHACK効果を実感したことをここに記しておきます。

MA2019に向けて

(開催されることを信じつつも)来年は身近な課題を、みんなが使える形で、できればソフトウェア領域のみで解決する、的なものを作って出したいと思っています。 完全に今年の優勝作品である「Facelot」の影響です。

FESTAの懇親会でお話させていただいたのですが、ものすごくよく考えられていて、最近の若者は優秀すぎる説を強烈に感じた次第です。特に、課題認識における視点がとても鋭く、常に何かないかと考えていらっしゃる様でした。僕もこのような「すごい!けどくやしい!なんで気がつかなかったんだ!」的なものを作れたら良いなと思っています。

まとめ

今回、精神的/金銭的/労働時間的にもかなりリソースをつぎ込んで作ったので、報われたといいますか、とにかく楽しかったです!ありがとうございました!

f:id:rocky_manobi:20181202183054j:plain